次のような制限が妥当かどうか、考えてみよう(現行制度とは異なる内容も含まれています)。


弁護士になるためには、司法試験に合格しなければならない。

解 説

弁護士になって弱い立場の人を救いたい! という気持ちはあっても、法律の知識やそれを活かす技能が伴っていなければ、依頼者は安心して任せることができませんよね。また、いくら勉強したとはいっても、客観的に試験に合格したという証明がなければ、弁護士としての能力があることにはなりません。そのため、憲法22条1項で「職業選択の自由」が保障されているからといって、すべて自由に職業を選べるということではなく、一定の職業については、資格や許可を受けなければならないという制限が付されています。それが、「公共の福祉」による制限です。

アルコール飲料の販売をするためには、行政の許可を受けなければならない。

解 説

アルコール飲料(お酒)を売るために許可を受けなければならないのはなぜでしょうか? 現在でも20歳にならなければ飲酒をすることはできないことになっていますが、20歳未満の者が酒に酔って迷惑をかけたり危険な行為をしたりすることを禁止するためとされています。そのため、売る側もそうした目的のためにまったく自由というわけではなく、許可を受けることが必要とされています。ただし、以前は、お酒は酒屋でしか売っていませんでしたが、今はスーパーや薬局、コンビニエンスストアでも購入することができるようになっています。これは、酒を販売する側の営業の自由とのバランスを取って法改正が行われ、許可を受けるための条件が緩和されたことによるものです。

薬局営業をするためには、行政の許可を受けなければならない。

解 説

薬局の開設には、都道府県知事の許可が必要で、6年ごとに更新しなければならないとされています。これは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称「薬事法」)という法律に定められており、不良な医薬品等を規制するために必要な措置といえます。薬という人体に影響が及ぶ物品を扱っているため、こうした規制が課せられているのですね。

公衆浴場(銭湯など)の営業をするためには、行政の許可を受けなければならない。

解 説

「銭湯や温泉などの公衆浴場を営業するためには、都道府県知事等の許可を受けなければなりません。「公衆浴場法」という法律が、公衆衛生の維持の観点から、許可を受けることを営業の条件としています。

すでにアルコール飲料を販売している他の店から50~150m程度離れていなければ、アルコール飲料を販売するための許可を受けることはできない。

解 説

問題2でみたように、お酒を販売するためには許可が必要とされていますが、その条件として、すでにお酒を売っている店から一定の距離が離れていなければならないという制限は必要な措置といえるのでしょうか。かつては、過度な競争を避けて飲酒秩序を守ることや、適正な価格の維持を目的として、こうした距離制限が課せられていました。しかし、飲酒秩序の維持のためには距離制限は必ずしも必要ではなく、むしろ自由に販売できた方が消費者の利便につながることなどを理由として、平成13年に距離制限は撤廃されました。

すでにある薬局から100m程度離れていなければ、新たに薬局を開設することができない。

解 説

薬局についても、開設に許可が必要であるとしても、距離制限まで必要かということが問題とされ、昭和50年の最高裁判決は、薬局に関する距離制限は憲法違反だと判断しました。元々、距離制限が課されていた理由は、薬局が乱立すると過当競争による経営の不安定につながり、結果として特定の地域では薬局がなくなってしまう可能性があり、それを防ぐこととされていました。しかし、最高裁は、不良医薬品の流通を防ぐためには、薬局の開設に許可を得ることには必要性が認められるものの、距離制限はその目的を達成するために必要な手段とはいえないと判断しました。つまり、最高裁は、「目的を達成するための手段として必要といえるか」という判断を行ったわけです。

すでにある公衆浴場から200m離れていなければ、新たに公衆浴場の営業をすることができない。

解 説

公衆浴場の距離制限についても最高裁判所で争われていますが、昭和30年の判決では、公衆浴場の乱立を防ぐためには必要な措置であるとして、合憲判決が出されています。問題6の薬局の場合とは正反対の結論ですが、公衆浴場と薬局という営業の性質の違いや、時代や社会状況の違い(自宅に風呂があるかないか)も、最高裁の結論に影響を及ぼしていると考えられます。なお、その後、社会状況の変化によって法改正がされ、現在では公衆浴場に対する距離制限は撤廃されています。


ま と め

法律の学習は、違法か適法か、裁判で勝ったかどうかという結論だけをみるのでなく、なぜそのような判断が示されたのかという理由づけや考え方を学ぶことが重要です。それによって、ルールに基づいて解決方法を考える「法的思考法」(「リーガル・マインド」とも呼ばれます)を身に付けることができ、あらゆる場面で論理的な問題の解決をすることができるようになります。

ぜひ、法学部での学びを通じて、社会に役立つ人材になるための素養を身に付けてください。